令嬢レベル3-65
「顔色が悪いよカレディ」
「あら、私は元気でしてよ?」
婚活がいない不安は、想像以上に大きかった。
眠れば襲撃を受けるんじゃないかと怖くて眠りが浅くなってしまった。その結果寝不足で、余計に注意力が落ちて起きてる間も怖くなってしまう始末。
ジャンお兄様に心配されて強がってみるものの体調不良で食も進まず、人一倍食べなくてはいけない私なのに摂取する栄養が足りないせいか今日は低血糖気味だ。
少し思考がぼんやりして、眠いしダルいしで正直しんどい。
それでも微笑んでいたのだけれど。
正面に座るレンお兄様が、テーブルに手を置いてこちらに体を乗り出して私の額に手を触れた。
「少し熱もあるな。今日は休んどけ」
「…大丈夫です、わぷっ!?」
反論をしようとするとジャンお兄様に口の中に1口サイズに切られた果物を突っ込まれた。
「今日は沢山食べて、沢山寝な?」
「いえだから大丈夫…」
「カレディが寝るまで僕ら二人で見張るから」
……大丈夫ですのに。
食欲は無いのだけれど、ジャンお兄様にまるで餌付けのように果物をいくつも食べさせられて、お腹がいっぱいになるとレンお兄様に…自室へと連行された。
「…いくらご兄妹とは言えレディの寝室に入るのはどうかと思います」
「カレディの具合が悪いから、今日だけね」
ドロシーが窘めるのもなんのその。
お兄様二人はそのまま私の寝台に座って私を中央に寝かせた。
「ほら、休め」
「添い寝が必要かい?」
「……要りませんわ。私、もうレディなんですもの」
ジャンお兄様に頭を撫でられて、レンお兄様は目を閉じさせようと大きな掌を目の上に被せてきた。
真っ暗闇でもレンお兄様の手の温もりとジャンお兄様の撫でる感覚を感じる。
この二人がいるなら絶対に大丈夫。
婚活とは違った安心感に包まれて、私は何とか眠りについた。
side???
「カレディの具合が悪くなったのはいつからだ」
「…おそらく一昨日の散歩の時かと思われます」
急に目に見えて辛そうになった妹の頭を撫でながら思案する。
当初予測したスカイラーの娘との諍いは、娘がカレディの言い分に納得する形に落ち着いたと報告を受けている。
反骨心を収めてしまえば、娘はさすがにスカイラー夫妻の子供らしく礼儀作法もしっかりしていて侍女らしい振る舞いに及第点がついていると聞くのでおそらくそれは問題ではない。
革手袋の件も庭師から嬉しそうに使い心地が良いと報告を受け、現在改良しつつ試作品を生産している状況だ。
パーティの件も素敵なお土産が用意出来ましたと執事のリッツが報告をあげてきたので問題は無いと思われる。
「何か問題があったように見えるか?」
「…私の目には特に。ああでもそういえば散歩の折、虫が手にあたってかすり傷をおってらっしゃいましたが…」
道中、怖がりもせず噛みつき虫を見ていた様子からして虫に怯えている線はうすそうだが…。
と、なるとまさか…ホームシックか?
とは言え僕も、レン兄さんも、ララも此処には居る。
父上を恋しく思うのは無しだから、となればーーーーカレディが恋しがるのは一人。
「おい、ジャン。すごい顔になってるぞ」
「嫌な想像をしまして」
まさか大量の貢物を見て恋しくなった、とかか?
あの貢物はスカイラー家寄りだったこの家の使用人達にカレディの『第一王子の婚約者』という立場を見せつけるために大いに役に立った。中隊もレン兄さんが王城で働いていることを見せつけ、さらにカレディの護衛が潤沢になったけど。
ーーー送り返すべきだったか。
もちろん王家からの品を受取拒否などしたら大問題になるから出来ないが…してやれば良かった。
「兄さん、帰るまで時間をなるべく多くとることは可能ですか?」
「ん?ああ、先輩たちもうちのを鍛える手伝いをしてくれるから結構取れるぞ」
「じゃあ時間を作ってカレディを構い倒してください。僕も時間を作りますから。カレディは…寂しくても、素直に甘えられないから。きっと今は寂しいんだと思います」
寂しいのを素直に言えなくって癇癪を起こしていた昔と違って、恐らく今のカレディは全てを溜め込む。
今度こそ、ちゃんと見てあげないと。
そう思ってサラサラの髪を撫でた。




