令嬢レベル3-64
ララがいれてくれた紅茶を飲みながら執事のリッツが揃えてくれたパーティの資料に目を通す。
パーティの内容は問題なかった。さすが代行としてディティリス邸の一棟を与えられているだけあってスカイラー夫人の能力は流石であった。
でもそうね。私とお兄様が参加するのならば…御令嬢にはお土産に赤い花束を差し上げようかしら。紳士には…漆黒のペンとかいかがかしら。期日はあと数日しかない。用意が間に合えば採用をしてもらおうと書類に書き込んでドロシーに届けてもらうために渡そうと差し出す。
「ドロシー、これをリッツに…いたっ!」
「お嬢様!?」
それは偶然だった。
ドロシーに書類を渡そうとした時、偶然飛んでいた虫が手に当たった。
大きな虫は樹に捕まるための鋭いかえしが足についており、それが素手に当たった瞬間傷がついた。
「すぐに消毒を」
「え、あ、ああ、大丈夫よ…」
小さな傷だ。数日で治るような。
けれど、血が出ている傷だ。
ーーーーーーー私の何かが損なわれるような事態がある場合緊急クエストが発動する。
手に傷を負った。それは明らかに美肌スキルに影響が出そうなものなのに…。
緊急クエストは発生していない。
体調不良の婚活。呼んでも中々返事をしてくれない状態。
ーーーまさか、緊急クエストも発生しないの?
足元が崩れ落ちるような不安でクラっとして、そのまま椅子に座り込む。
どうしよう、どうしよう、何が起きるかわからなくて怖い。
「お嬢様、顔色が悪いですよ。お部屋に戻りましょう」
「…ええ、そうするわ」
ドロシーとララに支えられて私は部屋に戻った。
婚活は、初めて出逢ったあの頃から私を支えてくれた。
私の選択に任せてくれてるものの、危険がないよう、取り返しがつかないことがないよう、諌めて慰めて、応援してフォローしてくれた大切な存在だ。
あの大樹のそばに居るととても落ち着くけれど。
その安心感は婚活と引き換えだとすれば、私にとって必要ないものだ。
体調が悪い婚活に心配をかけてはいけない。幸いあと五日で帰れる。アレン様がよこしてくれた中隊もいる。
アルフォンソもララも、お兄様達もドロシーもいる。
あと数日、きっと大丈夫だ。
私を守ってくれる人たちはいる。頼れる人たちだっている。
本邸襲撃時、お兄様たちはきちんと守ってくれたのだからきっと何も問題は起こらない。
大丈夫、大丈夫だ。そう自分に言い聞かせて婚活がいない不安を隠した。




