第98話 見えない歪み
―王都・上層区・貴族街―
(近衛騎士視点)
「……最近、様子がおかしい」
低く呟く。
屋敷の外。
警備任務。
いつも通り。
のはずだった。
―騎士A―
「……何がだ?」
隣の騎士が聞き返す。
特に変わった様子はない。
外から見れば。
―騎士B―
「……分からん」
「だが……」
言葉を切る。
―違和感の正体―
「……静かすぎる」
―騎士A―
「……静か?」
意味が分からない。
―騎士B―
「……あの人は」
「もっと“揺れていた”」
曖昧な言葉。
だが。
確かに。
違っている。
―記憶―
以前のエリナ。
穏やかだった。
優しかった。
時に。
迷いもあった。
―現在―
完璧だ。
隙がない。
乱れがない。
―騎士B―
「……人間らしさが……ない」
小さく言う。
―沈黙―
騎士Aも黙る。
否定できない。
だが。
言葉にしてはいけない。
―別視点:侍女たち―
「……ねえ、聞いた?」
「……何を?」
廊下の隅。
小さな声。
―侍女A―
「……最近……夜に」
「……起きてるの」
―侍女B―
「……それだけなら……」
普通の話。
だが。
―侍女A―
「……違うの」
「……動いてないのに……」
「……起きてるの」
―意味不明―
沈黙。
理解できない。
―侍女B―
「……どういうこと……?」
声が小さくなる。
―侍女A―
「……見たの」
「……目を開けたまま」
「……ずっと」
言葉が震える。
―恐怖―
動かない。
瞬きもしない。
ただ。
“起きている”。
―場面転換―
―エリナの部屋―
静かだ。
夜。
灯りはない。
だが。
目は開いている。
―エリナ―
「……」
ベッドの上。
横になったまま。
動かない。
―異常―
呼吸はある。
意識もある。
だが。
何もしていない。
―思考―
「……何かが」
小さく呟く。
「……足りない」
同じ言葉。
何度も。
―断片―
暗闇。
声。
誰かの背中。
……誰?
―拒絶―
「……違う」
すぐに切る。
思考を止める。
―締め―
歪みは小さい。
だが。
確実に広がっている。
本人が気づかないまま。
静かに。
壊れ始めていた。




