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第97話 エリナの現在

―王都・上層区・貴族街―

(侍女視点)


「……今日も、ですか……」


 小さく呟く。


 屋敷の奥。


 重たい扉の向こう。


 そこに。


 “彼女”はいる。


―侍女―


「……失礼いたします」


 恐る恐る。


 扉を開ける。


―室内―


 静かだ。


 広い部屋。


 豪華な装飾。


 だが。


 空気が重い。


―エリナ―


「……何?」


 窓際に立っている。


 外を見ている。


 振り返らない。


―侍女―


「……本日の予定ですが……」


 声が小さくなる。


 自然と。


 抑えてしまう。


―エリナ―


「……必要ないわ」


 短く言う。


 感情は薄い。


 冷たい。


―違和感―


 昔と違う。


 優しかった。


 穏やかだった。


 だが。


 今は。


―侍女(心中)―


(……変わった……)


(ここ数年で……)


―表面―


 完璧だ。


 立ち振る舞い。


 言葉。


 すべてが整っている。


―内側―


 何もない。


 そう見える。


―エリナ―


「……それだけ?」


 振り返る。


 目が合う。


―侍女―


「……はい……」


 思わず目を逸らす。


 怖い。


 理由は分からない。


 だが。


 怖い。


―エリナ―


「……なら、下がって」


 それだけ。


 もう興味がない。


―退出―


「……失礼いたしました」


 扉を閉める。


 息を吐く。


―侍女(小声)―


「……なんで……」


「……あんな……」


 言葉が続かない。


―違和感の正体―


 変わったのは。


 性格ではない。


 “何かが抜けた”。


 そんな感覚。


―場面転換―

―エリナの部屋―


 静かだ。


 誰もいない。


 エリナは。


 動かない。


―エリナ―


「……」


 窓の外を見る。


 王都の景色。


 人々の流れ。


 何も変わらない。


 はずなのに。


―違和感―


「……おかしい」


 小さく呟く。


 理由は分からない。


 だが。


 何かが。


 “足りない”。


―記憶の断片―


 地下。


 暗闇。


 誰か。


 ……誰?


―停止―


「……違う」


 首を振る。


 考えるのをやめる。


―拒絶―


「……関係ない」


 言い切る。


 それ以上。


 思い出さない。


―締め―


 整っている。


 完璧に。


 だが。


 その中に。


 確実に。


 “欠けているもの”があった。



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