第86話 慣れないズレ
―王都外縁・荒野―
風が流れる。
同じ景色。
同じ距離。
同じ構え。
――のはずだった。
―カイン―
「……」
動かない。
ただ。
見ている。
―違和感の継続―
「……またか」
小さく呟く。
さっきと同じ。
動き出しが。
“ほんのわずかに遅れる”。
―確認―
踏み込む。
速い。
いつも通り。
――のはず。
―衝突―
拳がぶつかる。
その瞬間。
ゼルの一撃が。
先に入る。
―結果―
衝撃が深く入る。
完全静止。
逃がさない。
―カイン―
「……」
言葉が出ない。
理解している。
今のは。
“遅れた”。
―蓄積―
一度ではない。
二度。
三度。
繰り返されている。
―本質―
偶然ではない。
誤差でもない。
“変化している”。
―ゼル―
踏み込む。
同じ。
変わらない。
いや。
“変わっていないことが異常”。
―衝突②―
拳がぶつかる。
静止。
ズレない。
崩れない。
―結果―
また入る。
同じ深さ。
同じ衝撃。
―カイン―
一歩下がる。
意図せず。
体が反応する。
―リリア―
「……止まらない……」
小さく呟く。
ゼルの攻撃が。
止まらない。
崩れない。
―ズレの拡大―
カインの動き。
ほんのわずか。
だが。
確実に。
遅れている。
―カイン―
「……慣れないな」
低く言う。
事実として。
認める。
―意味―
今まで。
ズレたことがない。
常に最適。
常に最速。
常に最短。
それが。
崩れている。
―ゼル―
止まらない。
次。
その次。
連続で踏み込む。
―連続衝突―
一撃。
二撃。
三撃。
すべて同じ。
すべて崩れない。
―カイン―
防ぐ。
だが。
間に合わない。
ほんのわずか。
それだけで。
差が生まれる。
―締め―
ズレは小さい。
だが。
その小さなズレは。
消えない。
広がる。
そして。
取り戻せなくなる。




