第85話 削られる強者
―王都外縁・荒野―
風が流れる。
砂が舞う。
音は少ない。
だが。
戦いは止まっていない。
―カイン―
「……」
静かに構える。
呼吸は一定。
乱れてはいない。
はずだった。
―違和感―
「……遅い」
小さく呟く。
自分の動きが。
わずかに。
遅れている。
―否定―
「……気のせいだ」
すぐに切り捨てる。
だが。
完全には消えない。
―ゼル―
踏み込む。
速い。
変わらない。
いや。
“変わっていないように見える”。
―衝突―
拳がぶつかる。
その瞬間。
――完全静止
逃がさない。
ズレない。
―結果―
衝撃が深く入る。
確実に。
同じ深さで。
―カイン―
「……っ」
わずかに顔が歪む。
ほんの一瞬。
だが。
今までなかった反応。
―蓄積―
一撃。
二撃。
三撃。
すべて同じ。
同じ深さ。
同じ重さ。
―異常性―
普通なら。
ズレる。
ブレる。
精度は落ちる。
だが。
ゼルは違う。
―完全維持―
最初から最後まで。
“同じ状態”。
変わらない。
崩れない。
―カイン―
「……なるほど」
小さく呟く。
理解する。
これは。
“偶然ではない”。
―認識の変化―
同格ではない。
同じでもない。
“別の領域”。
―衝突継続―
カインが踏み込む。
反撃。
同じ技。
同じ静止。
―違い―
だが。
わずかに。
ズレる。
―ゼル―
見逃さない。
すぐに差し込む。
同じ一撃。
完全静止。
―命中―
深く入る。
確実に。
―カイン―
一歩、下がる。
初めて。
“自分から”。
―リリア―
「……下がった……」
小さく呟く。
信じられない。
あのカインが。
―カイン―
「……削られているな」
静かに言う。
否定しない。
認める。
―ゼル―
「……そうか」
短く返す。
それだけ。
―締め―
崩れてはいない。
だが。
確実に削られている。
その事実が。
頂点を。
少しずつ揺らし始めていた。




