第443話「受け継がれた法」
ゼルの崩御から五百年。
かつて王都と呼ばれた都市は、多くの国々を結ぶ学術都市へと姿を変えていた。
中央広場には市場が並び、港では各地の船が荷を降ろす。街道は整備され、診療所や学校は国境を越えて学び合う場所となっていた。
王という制度はすでに存在しない。
それでも、一つだけ変わらず受け継がれている法があった。
――十五歳以下の者を、大人の罪で裁いてはならない。
その一文は何度も書き写され、時代ごとに表現を変えながらも、本質だけは失われることなく残り続けていた。
人々の多くは、その法を定めた人物の名さえ知らない。
それでも法は、人の暮らしの中で静かに息づいていた。
ある日、一人の教師が子どもたちへ古い歴史書を開く。
「この法は、一人の王が残したものです。」
子どもたちは静かに耳を傾ける。
復讐の話ではない。
戦争の話でもない。
未来を守るため、一人の王が最後まで手放さなかった願いの話だった。
授業が終わる頃、窓の外では子どもたちが笑いながら走り回っている。
その姿を見つめる教師は、小さく歴史書を閉じた。
遠い昔、一人の男が守ろうとした未来は、誰にも気付かれないほど自然な日常となって、この世界へ静かに根付いていた。
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