第437話「贖罪塔の朝」
ゼルが王となってから七日目の朝。
王都には穏やかな風が流れていた。
市場では地方から届いた野菜が並び、修復された井戸には水を汲む人々の姿が戻っている。街道では荷馬車が静かに行き交い、港には新しい帆船がゆっくりと接岸していた。
崩壊寸前だった都市は、少しずつ呼吸を取り戻していた。
その一方で、北端だけは誰も近づかなかった。
黒い石で築かれた贖罪塔。
厚い外壁に囲まれたその塔から、低く押し殺された泣き声が響いていた。
ガルド。
リシェル。
エリナ。
カイン。
ヴァルディス。
五人の声は互いに重なりながらも、それぞれ異なる苦痛を抱えている。
ある者は何度も許しを乞い、ある者は怒号を上げ、またある者は言葉にならない嗚咽を繰り返していた。
しかし、その声が塔の外へ漏れることはない。
ゼルは塔の周囲に二重の防音壁を築かせていた。
これは見せしめではない。
苦しみを民へ見せる刑でもない。
罪を犯した五人だけが、自らの罪と向き合い続ける場所だった。
巡回していた若い兵士が塔を見上げる。
「中では……今も。」
年配の隊長は小さく頷いた。
「ああ。」
「終わらない。」
それ以上、二人は言葉を交わさなかった。
朝日が黒い塔を静かに照らしている。
王都には新しい暮らしが戻り始めていた。
だが、あの塔だけは時間から切り離されたまま、永遠という名の刑を今日も続けていた。
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