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裏切られた俺だけが覚醒した 《契約支配(ドミネーション・コントラクト)》 ――奪われたすべてを、奪い返す 〜今さら謝ってももう遅い〜  作者: 竜太郎


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435/444

第435話「冠なき戴冠」

 ヴァルディスが贖罪塔へ送られた翌朝、王城の鐘は静かに一度だけ鳴らされた。


 かつて王の即位には幾重もの儀式があり、貴族や諸侯が列をなし、豪奢な祝宴が何日も続いた。しかし、その朝の王城には華やかさは存在しなかった。


 集まったのは地方行政を支える役人、港町の代表、修道院の司祭、街道管理を担う者たちだけだった。


 王冠は赤い布の上へ置かれている。


 宝石は曇り、黄金の輝きも失われていた。


 ゼルはその前へ立つ。


 だが王冠には手を伸ばさなかった。


「飾りは必要ない。」


 静かな声だった。


 広間に集まった者たちは、その言葉を黙って聞いている。


「王とは冠ではない。」


 ゼルはゆっくりと王座へ歩いた。


 石で造られた玉座は冷たく、歴代の王たちが座り続けた重みだけを静かに残していた。


 腰を下ろす。


 歓声はない。


 拍手もない。


 ただ朝日だけが高窓から差し込み、新しい王の姿を静かに照らしていた。


 書記官は新しい年号を書くこともなく、一枚の法令を読み上げる。


「第一裁定。十五歳以下の者を、身分・血筋・親の罪によって裁いてはならない。」


 それが新しい治世の始まりだった。


 王都を支配するためではない。


 二度と地下施設のような悲劇を生ませないため。


 王となったゼルが最初に守ろうとしたのは、国ではなく未来を生きる子供たちだった。


 誰も異を唱えない。


 静かな朝の空気だけが、新しい時代の始まりを王城全体へ運んでいた。


(次話へ)


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