第434話「五つ目の鎖」
王城北端。
黒い石だけで築かれた高い塔が、朝霧の向こうに静かにそびえ立っていた。
飾りはない。
紋章もない。
ただ一枚の鉄扉だけが、この塔が誰のために存在するのかを無言で物語っている。
人々はいつしか、この場所を「贖罪塔」と呼ぶようになっていた。
ゼルはヴァルディスを伴い、その前で足を止める。
鉄扉が低い音を立てて開く。
その瞬間、内部から四つの泣き声が流れ出た。
ガルド。
リシェル。
エリナ。
カイン。
彼らは死してなお終わることを許されず、自ら他者へ与えた恐怖と苦痛を、自身の魂で永遠に受け続けていた。
肉体は朽ちない。
意識は眠らない。
時間だけが終わりなく積み重なる。
ヴァルディスの足が止まる。
その顔から血の気が引いた。
「違う……私は……国家のために……」
言葉は続かなかった。
ゼルは何も答えない。
静かに背へ手を添え、一歩だけ前へ押した。
ヴァルディスの身体が塔の中へ消える。
重い鉄扉が閉じられる。
その瞬間。
四つだった泣き声へ、新たな一つが重なった。
五つ。
贖罪塔は、その瞬間に完成した。
誰へ見せるための刑でもない。
誰かを恐れさせるための見せしめでもない。
これは、自ら裏切りを選び、多くの命を踏みにじった五人だけが受け続ける、終わりのない判決だった。
ゼルは塔へ背を向ける。
二度と振り返らない。
復讐は終わった。
ここから始まるのは、罪を忘れず、それでも生きる者たちの国を築くための長い時間だった。
朝日が黒い塔を静かに照らしている。
その石壁の奥では、五つの泣き声だけが、誰にも届くことなく永遠に響き続けていた。
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