第432話「外縁の霧」
王都を囲む巨大な外壁のさらに外側、かつては都市への流入を待つ旅人や商人で賑わっていた外縁の宿場町。いまやそこは、王都から逃げ出してきた無数の民が一時的に身を寄せる、混沌とした避難所の成れの果てと化していた。しかし、そこには暴動や略奪といった激しい混乱の気配すらなく、ただ全員が次の行き先を見定められないまま、乾いた沈黙に包まれていた。
人々は古びた荷車や家財道具の影に身を潜め、どんよりとした曇り空から降りてくる冷たい朝霧に耐えている。誰もが背後にそびえ立つ王都の巨大な城壁を見上げようとはしなかった。彼らにとって、あの堅牢な石の壁はもはや守り手ではなく、近づいてはならない不気味な墓標と同じ意味を持っていたからだ。
地方の経済がバルカスを中心に勝手に回り始めたという噂だけが、人々の間で低い囁き声となって伝わっていく。中央の権威という名の虚飾が完全に剥がれ落ちた今、民は自らの足で新しい生存の地を求め始めていた。
霧は敷石の上を静かに這うようにして広がり、かつて栄華を極めた都市の境界線を、完全に世界の記憶から消し去ろうとしていた。誰の明確な悪意によるものでもなく、ただ巨大なシステムが自ら動力を失って停止していくその様子を、世界はただ沈黙をもって観測し続けていた。




