第431話「静寂の進捗」
王城の東区に位置する、かつては華やかな儀式が執り行われていた大礼拝堂。いまやその巨大な扉は鎖で硬く閉ざされ、中に安置された数々の祭壇には、誰の指先にも触れられることのない分厚い灰色の埃が積もり続けている。ステンドグラスを透過する午後の光だけが、誰もいない大理石の床の上に、虚しく極彩色の幾何学模様を描き出していた。
行政が完全に停止した王都では、祈りという精神的な営みさえも、生存のための優先順位から速やかに排除されていた。一人の年老いた神官が、自らの聖衣を乱暴に脱ぎ捨て、古い麻袋に必要なだけの乾パンと水筒を詰め込んでいた。彼は長年仕えてきた神の彫像を一度も見上げることなく、ただ重い足取りで裏口の木扉を開けた。
防壁の外へと続く隠し通路の存在は、すでに城内の誰もが知る公然の秘密と化している。神官が去ったあとの堂内には、ただ開け放たれた扉から吹き込む、乾いた風の音だけが不気味に響き渡っていた。
神の威光による統治も、ヴァルディスの合理主義による統治も、人が去れば等しくただの砂の城でしかない。王都を支えていたすべての概念が、こうして一つずつ物理的な実体を失い、ただの空虚な石の構造物へと還元されていくプロセスが、誰の邪魔も入らずに冷徹に進んでいた。




