第430話「天秤の固定」
ゼルは、変わらずそこに立っていた。王城前の広場。民の足跡も、近衛兵の気配も完全に途絶えた白い石畳の上で、彼の影だけが朝の光を浴びて静かに伸びている。城壁の向こうの最深部には、ヴァルディスがいる。二人の間の距離は、最初に対峙したあの日から一歩も縮まってはいない。しかし、二人を囲む王都の空気は、すでに完全に生命の気配を失っていた。
ゼルは目を動かすことなく、ただ静かに城の門を見つめていた。彼の内に宿るのは、元凶に対する個人的な憤怒ではない。それは、積み重なった罪の重さを正確に計測し、正しい罰を下すための、冷徹な法そのものだった。カインもガルドも、すでに己の罪の報いを受けて表舞台から消え去った。残された最後の駒であるヴァルディスが、自らの合理主義の檻の中で身動きを止めるときを、彼はただ待っている。
物理的な剣を振るう必要はなかった。国としての制度が崩壊し、民が去り、すべてが空虚に還るそのプロセス自体が、この国に下された最大の裁定だった。世界はその静かな結末を、ただ沈黙をもって受け入れていた。すべてが終わり、そして新しい歴史が始まるその瞬間が、すぐそこまで迫っていた。
目に見えない天秤の針は、すでに完全に傾き、固定されようとしていた。世界はその静かな結末を、ただ沈黙をもって受け入れていた。すべてが終わり、そして新しい歴史が始まるその瞬間が、すぐそこまで迫っていた。




