第415話「紋章の変色」
王城の謁見の間の大きな窓から見下ろす広場は、今朝も完全に静まり返っていた。敷石の細かな隙間から生えた小さな雑草が、誰に踏まれることもなく朝の光の中でかすかに揺れている。ヴァルディスは窓枠からゆっくりと手を離し、部屋の壁に掛けられた大きな王国の紋章を見上げた。
金色の刺繍はまだ微かな輝きを放っているが、それを仰ぎ見る人間は、この城の中にも、外の街にも、もうほとんど残されていない。「数の問題ではない」とヴァルディスは静かに呟いた。人間が物理的に消えたのではない。彼らをこの場所に繋ぎ止めていた、目に見えない意思の質量が消滅したのだ。
地下施設でどれほど緻密に人間の精神を測定し、恐怖や苦痛に対する反応をデータ化しても、この「無反応」という状態だけは再現できなかった。実験室の壁は被験者を閉じ込めることができたが、王城の壁は、去っていく民の心を閉じ込めることはできない。
ヴァルディスは自分の手を見た。彼の皮膚は白く、どこにも傷はない。しかし、彼がどれほど明晰な頭脳で世界を観察し続けようとも、その指先から何かが砂のように零れ落ちていく感覚だけは、止めることができなかった。
返るはずのない問いの余韻が、薄暗い空間にいつまでも漂っていた。彼らは多くを語ることをやめ、ただ互いの背中を信頼の目で見つめながら、次なる深淵へと足を進めるしかなかった。




