第414話「三十四枚目の余白」
ヴァルディスの執務机の上に、新しく届けられた報告書が一枚、音もなく重ねられた。昨日までは三十三枚だったその束に、今朝、顔を青白くした側近が何も言わずにこの紙を置いてそのまま立ち去っていった。
そこに記されていたのは、西区の下層商業区および地下換気施設の全機能が完全に停止したという事実が、極めて短い事務的な文章で淡々と報告されているのみだった。ヴァルディスは椅子に深く腰掛けたまま、その紙の白さを微動だにせず見つめている。彼の細い指先は、ペンの軸に触れることすらしていなかった。
読むべき内容など、最初からすべて頭の中で計算済みだったからだ。人間という駒は、生存の基盤となるインフラや秩序が揺らぎ始めると、個人の保存を最優先して組織から離脱する。それは地下施設での実験でも証明済みの、極めて論理的で普遍的な行動原理だった。
だが、彼の過去のデータに決定的に欠けているのは、その自壊の速度を止めるためのレバーだった。支配すべき対象そのものが煙のように消え去り、残されたのは空虚な王城の石組みだけだった。
拾い上げた物資の重みだけが、自分たちがまだ生きており、生活を続けているという唯一の証明だった。世界がどれほど崩壊しようとも、日々の営みは決して途絶えさせてはならない。




