第412話「観察室の砂時計」
王城の東棟、その最上階に近い薄暗い観察室。リリアは、机の上に広げられた広大な王都市街の地図を、感情の失せた瞳で見つめていた。彼女の細い指先は、いくつかの区画を分断するように置かれた黒い石の駒を、慎重に、かつ冷徹な動作で動かしていく。
手元の台帳には、各地区の治安維持能力や物資の残高を示す数字が書き込まれていたが、今朝のページにはただ一条の冷たい斜線が引かれているだけだった。報告を上げるべき末端の人間が、すでに組織から消失したことを示している。リリアは、机の端でさらさらと音を立てて落ちる小さな砂時計を、静かにひっくり返した。
ガラス of 球体を透過する朝の光は、どこまでも冷たく、敷石の上に細い影を落としている。ゼルが具体的な破壊の命令を下したわけではなく、リリア自身がこの街を物理的に壊しているわけでもない。
ただ、かつて地下施設で行われていた凄惨な実験と、その結果として積み上げられた罪の重さが、この国家というシステムを内側から勝手に崩壊させるタイマーとなっていた。リリアは筆を執り、完全に沈黙した西区の境界線へ、冷たい実線を静かに引き伸ばした。
異形の流す黒い体液が、岩肌に触れて小さな泡を立てながら消えていく。その不気味な光景すら、彼らの心を動かすことはなく、ただ生存のための冷徹な現実として処理されていった。




