第402話「三十四枚目の報告」
ヴァルディスの整然とした机の上に、新しい報告書が一枚、音もなく重ねられた。昨日までは三十三枚だった。今朝、顔を白くした側近が、何も言わずにその紙を置いてそのまま去っていった。そこに記されていたのは、中央区の地下換気施設および物資管理の全機能が停止したという事実が、極めて短い文章で淡々と報告されていた。
ヴァルディスは椅子に深く腰掛けたまま、その紙の白さをじっと見つめている。彼の細い指先は、ペンの軸に触れることすらしていなかった。読むべき内容など、最初からすべて分かっていたからだ。人間という駒は、生存の基盤が揺らぎ始めると、個人の保存を最優先して組織から離脱する。それは地下施設での実験でも証明済みの、極めて論理的で普遍的な行動原理だった。
だが、彼の過去のデータに決定的に欠けているのは、その自壊の速度を止めるためのレバーだった。恐怖による統治は、恐怖を与える主体が権威を持っているという前提の上にしか成り立たない。民が城そのものを無視し始めた今、恐怖は何の効力も持たなかった。
ヴァルディスは机の上の三十三枚の書類の上に、新しい一枚を重ねた。紙の厚みが増すたびに、彼の部屋の静寂はさらに深まっていく。超合理主義者が構築した世界は、その合理性の正しさゆえに、一切の逃げ道を持たずに完璧に麻痺しつつあった。冷え切った室内には、ただ紙が擦れる微かな音だけが残されていた。




