第403話「観測の終端」
王城の大きな窓から見下ろす広場は、今朝も完全に静まり返っていた。敷石の細かな隙間から生えた小さな雑草が、誰に踏まれることもなく朝の光の中でかすかに揺れている。ヴァルディスは窓枠から手を離し、部屋の壁に掛けられた大きな王国の紋章を見上げた。金色の刺繍はまだ輝きを放っているが、それを仰ぎ見る人間は、この城の中にも、外の街にも、もうほとんど残されていない。
「数の問題ではない」
ヴァルディスは静かに呟いた。人間が物理的に消えたのではない。彼らをこの場所に繋ぎ止めていた、目に見えない意思の質量が消滅したのだ。地下施設でどれほど緻密に人間の精神を測定し、恐怖や苦痛に対する反応をデータ化しても、この「無反応」という状態だけは再現できなかった。実験室の壁は被験者を閉じ込めることができたが、王城の壁は、去っていく民の心を閉じ込めることはできない。
ヴァルディスは自分の手を見た。彼の皮膚は白く、どこにも傷はない。しかし、彼がどれほど明晰な頭脳で世界を観察し続けようとも、その指先から何かが砂のようにサラサラと零れ落ちていく感覚だけは、止めることができなかった。支配すべき対象そのものが煙のように消え去り、残されたのは空虚な王城の石組みだけだった。彼が信じた合理主義は、皮肉にも完全な無という答えを導き出していた。




