第400話「機能の余白」
王城の一角にある、薄暗い観察室。リリアは、机の上に広げた大きな地図の前に立ち、細い指先でいくつかの小さな黒い木片を慎重に動かしていた。
彼女の手帳には、王都の各区画から定期的に届くはずの数字が、ぎっしりと書き込まれている。しかし、今朝のページには、具体的な数字の代わりにただ一条の冷たい斜線が引かれているだけだった。定時の連絡を送るべき末端の役所から、管理する人間が完全にいなくなったことを意味していた。リリアは、机の上の小さな砂時計を静かにひっくり返した。さらさらと落ちる細い砂の粒を見つめながら、彼女の頭の中では、次の区画が自壊するまでの正確な時間が刻まれていた。
「中央区の東側が終われば、残るは中枢の城内だけ」
彼女は誰に聞かせるでもなく、淡々とした声で呟いた。ゼルが何か具体的な破壊の命令を下したわけではない。リリア自身がこの世界を動かしているわけでもない。
ただ、第一部で地下施設の全貌が白日の下に晒されたあの日から、この国家というシステムは、内側から勝手に崩壊するタイマーを回し始めていた。リリアは筆を執り、地図の中央区を完全に分断するような黒い実線を、静かに引き伸ばしていった。砂時計の底に溜まる砂のように、王都の余命は一刻一刻と、彼女の計算通りに確実に削り取られていた。その冷徹な作業は、まるで崩壊する国への静かな葬送曲のようだった。




