第39話 崩れゆく計算
―魔導区画・上層監視塔―
「……修正」
リシェルが呟く。
先ほどのズレ。
即座に再計算。
「誤差補正」
「出力調整」
手は止まらない。
むしろ速くなる。
―再展開―
魔法陣が再び安定する。
「……これでいい」
理論通り。
完璧。
――のはずだった。
―再発―
「……遅れ?」
防御が反応する。
だが。
また、わずかに遅れる。
「……なぜだ」
目が揺れる。
―連続誤差―
「……いや」
「さっきの補正が原因か」
「なら――」
さらに調整する。
だが。
―悪化―
「……ズレが増えている?」
数値が不安定になる。
魔法陣が揺れる。
「……おかしい」
呼吸が乱れる。
―思考加速―
「原因を特定」
「再計算」
「再構築」
思考が加速する。
だが。
「……追いつかない?」
初めての感覚。
―ゼル―
「……無理だな」
静かな声。
リシェルが顔を上げる。
「……何がだ」
「修正が間に合っていない」
「……」
否定できない。
―崩壊の本質―
「一つ直せば」
「別が崩れる」
「……」
「全部繋がっているからだ」
核心。
―連鎖崩壊―
防御が揺れる。
一層。
二層。
維持できない。
「……止まれ」
リシェルが呟く。
「……止まれ……!」
だが。
止まらない。
―精神の揺れ―
「……違う」
「これは間違いじゃない」
「計算は正しい」
「……なのに」
言葉が崩れる。
―完全乱れ―
魔法陣が歪む。
数式が乱れる。
制御が不安定になる。
「……制御不能……?」
その言葉が出る。
自分の口から。
―締め―
天才は、すべてを計算する。
だが。
“計算できない状況”に置かれた時。
その力は。
逆に自分を壊す。




