第385話「静かなる分断」
中央区の境界線に位置する大通り。そこには、数日前まで設置されていたはずの、警備のための移動式木製バリケードがそのまま放置されていた。
それを移動させようとする近衛兵の姿はなく、ただ通りを抜ける冷たい風が、防壁の隙間に溜まった落ち葉をカサカサと鳴らしながら通り過ぎていく。
一人の老いた御者が、馬車の荷台に空の木箱を積み上げながら、静まり返った通りをただ眺めていた。
かつては、この時間帯になると、城門へと向かう荷馬車で足の踏み場もないほどの渋滞が発生していた場所だ。
しかし、今朝は検問所の窓に人影すらなく、ただ開け放たれた鉄格子が、機能の停止を静かに告げている。
御者は馬の手綱を握り直し、静かに馬車を動かした。
彼が運ぶべき物資は、もう王都の中には残されていない。
車輪が石畳を叩く規則的な音だけが、誰もいない大通りの建物に不自然に跳ね返り、そのまま遠くの城壁へと消えていく。
誰の指示でもなく、王都の中心から日々の営みが静かに、確実に外側へと溢れ出していた。
後に残されたのは、主を失った頑丈な石の建築群と、ただ静かに流れていく冷たい霧だけだった。
国を動かしていた生命の気配が、皮膚に触れる空気の弛緩によって、完全な空白へと変わっていく。
御者は一度も振り返ることなく、開かれた街道を見つめて、ゆっくりと王都の版図を離れていった。




