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第380話「穴のあいた境界」
王都を外部から完全に隔離するための、最も堅牢な北門。
鉄の鋲で補強されたその巨大な木製の門扉は、今朝もなぜか半分ほど開かれたままで固定されていた。
門を警戒するべき近衛兵の姿は二人しかなく、彼らは槍を地面についたまま、虚ろな目で通り過ぎる人々を眺めていた。
家財道具を小さな荷車にまとめた平民の家族連れが、引き止められることもなく、門の外へと静かに出ていく。
兵士は彼らを咎めない。名前を尋ねることも、通行の目的を問うこともしなかった。
かつて通行税を厳しく徴収していた城下の役人は、もう詰所のどこにも残っていなかったからだ。
「……門を閉めなくていいのか」
一人の兵士が、風に混じる土埃を避けながら、隣の同僚に尋ねた。
「閉めたところで、この城の中に誰も残らなくなるだけだ」
もう一人が表情を変えずに答えた。
敵の侵入を防ぐための強固な城門は、すでにその本来の機能を完全に失っていた。
そこにあるのは、ただ国から人が零れ落ちていくための、大きな穴に過ぎなかった。




