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第379話「バルカスの白紙」
港町バルカスの港長室には、今日も変わらず波の音とともに、強い塩気を含んだ海風が吹き込んでいた。
記録係のネルは、使い切った古い帳面を棚の奥へと片付け、真新しい白い帳面を机の上に広げた。
彼女はペンを取り、最初のページの最上部に「地方間流通記録」と硬い文字で書き込んだ。
これまでの帳面に必ず印刷されていた「王都直行便」という五文字の項目は、今回の帳面からは最初から除外されていた。
王都へ運ばれるはずだった大量の塩や、頑丈な建築用の木材は、今ではすべて西の街道を迂回して別の地方へと流れ始めている。
中央の機能がどれほど麻痺しようとも、地方の民は生きていかなければならない。
そのためには、機能しない王都を最初から存在しないものとして扱い、自分たちで新しい生活の道を見つけるだけのことだった。
ネルの目の前では、地方の商人たちが中央の許可を介さない新しい取引について、活気ある声で交渉を行っていた。
彼女の手元にある帳面の中から、王都という言葉の質量が、一歩ずつ確実に消え去ろうとしていた。
世界は王都を中心に回るのを止め、独自の巡り方を始めていた。




