第377話「廊下の温度」
王城の東棟に位置する、かつては主要な会議が執り行われていた大廊下。
床には最高級の赤い絨毯が敷き詰められており、近衛兵たちの重い金属靴の音を完全に吸い込んでいた。
しかし、今その廊下を歩く近衛兵の姿はどこにもなく、ただ冷え切った大気が淀んでいる。
一人の若い使用人が、空の木箱を抱えて、廊下の隅にある小さな扉の前で立ち止まった。
扉の隙間からは、かつてカインや他の貴族たちが集まって予算の分配を話し合っていた、空の会議室が覗いていた。
机の上には、主を失ったまま数日間放置され、完全に乾燥して固まったインク瓶が並んでいる。
彼らが失脚し、どこへ幽閉されたのか、使用人は知っていた。
国を支えていた上層部の人間たちが次々と消え去り、今やこの城の中に残されているのは、窓の向こうのヴァルディスと、数人の疲弊した兵士だけだった。
使用人は、会議室の扉に新しい錠前が下ろされているのを確認した。
鍵は、誰もいなくなった事務室の引き出しの中に置かれたままだ。
彼がどれほど部屋を掃除しても、城の内部から失われていく生命の温もりを呼び戻すことはできなかった。
使用人は下を向いたまま、自分の足音だけを聴きながら、薄暗い東棟の奥へと静かに消えていった。




