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第376話「砂の積算」
王城の一角にある、薄暗い観察室。
リリアは、机の上に広げた大きな地図の前に立ち、細い指先で木片を動かしていた。
彼女の手帳には、王都の各区画から届くはずの数字が、ぎっしりと書き込まれている。
しかし、今朝のページには、数字の代わりにただ一条の斜線が引かれているだけだった。
定時の連絡を送るべき末端の兵舎から、人が完全にいなくなったことを意味していた。
リリアは、机の上の小さな砂時計をひっくり返した。
さらさらと落ちる細い砂の粒を見つめながら、彼女の頭の中では、次の区画が自壊するまでの正確な時間が刻まれていた。
「南区の次は、中央区の東側」
彼女は誰に聞かせるでもなく、淡々とした声で呟いた。
ゼルが何か具体的な命令を下したわけではない。
リリア自身が世界を動かしているわけでもない。
ただ、第一部で地下施設の全貌が白日の下に晒されたあの日から、この国家というシステムは、内側から勝手に崩壊するタイマーを回し始めていた。
リリアは筆を執り、地図の中央区を完全に分断するような黒い実線を、静かに引き伸ばしていった。
砂時計の底に溜まる砂のように、王都の余命は一刻一刻と、彼女の計算通りに削り取られていた。




