第375話「机の上の境界」
ヴァルディスは、自らの執務室の窓際に立ち、無人となった広場を見下ろしていた。
彼の背後にある重厚な机の上には、未処理の報告書がう高く積み上げられている。
昨日までは三十二枚だったその束の上に、今朝、さらに新しい一枚の紙が付け足されていた。
中央区の給水施設が完全に停止したことを伝える、末端の技術官からの最後の悲鳴だった。
ヴァルディスは、その白い紙の束に触れようとはしなかった。
超合理主義を貫く彼の頭脳にとって、中に書かれている数字や原因などは、最初から計算式の範囲内に過ぎなかった。
恐怖を与えれば人間は平伏し、怒りを与えれば反抗する。
それは地下施設での非道な人体実験を通じて、彼が完全に証明し、蓄積してきた確実な行動データだった。
しかし、今の民衆が示している「完全な関心の消滅」という反応だけは、彼のどのデータにも記載されていなかった。
民は城を呪うことすら止め、ただそこに存在しないものとして扱い、静かに去っていった。
ヴァルディスは細い指先で窓枠をなぞり、冷たいガラスに自分の額を押し付けた。
彼がどれほど明晰な理論を組み立てようとも、机の上の三十三枚の書類は、ただの動かない処理不能のノイズとして、部屋の静寂の中に埋もれていた。




