第361話「朝の足跡」
王都中央区へと続く主要な大通りには、朝露に濡れた白い石畳がどこまでも静かに広がっている。かつては朝一番の市場に向かう群衆の活気ある声や、整然と隊列を組んだ近衛兵の革靴の音が忙しく響き渡る場所だった。
しかし、今朝の通りを歩く者の姿は一人もなく、ただ冷たい霧が地面を低く這うように流れている。一人の老いた御者が、自分の馬車の横に立ち、誰もいない通りをただじっと眺めていた。彼の馬車には、地方へ運ぶための空の木箱がいくつか積まれている。いつもなら、城門を通過する際に入念な荷物検査を行うはずの役人が、今朝は詰所の窓から顔を覗かせることすらしなかった。
御者は馬のたてがみを軽く撫で、静かに手綱を握り直した。
「……行くか」
彼は誰に言うでもなく呟いた。王都の中に留まっていても、これ以上新しく運ぶべき荷物も、それを買い取るだけの余力を持った商店も残されていない。馬車が動き出すと、車輪の軋む音だけが静まり返った街並みに不自然なほど大きく反響した。
御者は背後の王城を一度も振り返ることなく、ただ前方の開かれた街道だけを見つめてゆっくりと進んでいった。誰の指示でもなく、王都の中心から日々の営みが静かに、確実に外側へと溢れ出していた。
残されたのは、主を失った頑丈な建物と、ただ通りを通り抜ける冷たい風の音だけだった。生活という血が抜けた都市は、ただの巨大な石の塊へと変わりつつあった。誰もその変化を止めることはできず、街は静かに呼吸を止めるようにして、ただそこに横たわっている。




