360/444
第360話「冷たい天秤」
ゼルは、昨日と全く同じ場所にただ静かに佇んでいた。
王城前の広場。民の気配が完全に消え失せ、静まり返った白い石畳の上に、彼は一人で立っている。
冷たい風が、高くそびえ立つ城のバルコニーから、彼の黒い髪を揺らして吹き抜けていった。
そのバルコニーの奥、薄暗い部屋の中にはヴァルディスがいる。
二人の間に、遮る壁はない。だが、言葉が交わされることも決してなかった。
南区が沈黙し、外からの物流が完全に途絶え、城内が高官を失って空虚になろうとも、ゼルの表情が動くことはなかった。
彼は、この国を力でねじ伏せるために剣を抜いたわけではない。
これまでに国家が積み重ねてきた底知れぬ罪の重さによって、制度が自ら傾き、音もなく沈んでいくその過程をただ見つめているのだ。
ゼルは、静かに視線を城の中枢へと向けた。
目に見えない罪を量る天秤の皿は、すでに片方が引き返せないほど深く、地面へと沈み込んでいた。




