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第354話「三十二枚目のノイズ」
ヴァルディスの整然とした机の上に、新しい報告書が一枚、音もなく重ねられた。
昨日までは三十枚だった。今朝、顔を白くした側近が、何も言わずにその紙を置いていった。
そこに記されていたのは、南区のすべての行政機関が今朝から完全に稼働を停止したという、末端からの事実上の敗北宣言だった。
ヴァルディスはペンを持とうとはしなかった。
書類の束の、一番上に位置するその紙を冷徹な目で見つめている。
中身を細かく読む必要はなかった。
書かれている数字も、発生している原因も、すべては彼の頭の中にある予測の範囲内だった。
人間が集団心理によって組織を離脱していくときの、典型的な動向データそのものだった。
だが、その先を解決するための数式がなかった。
去っていった人間をどのようなインセンティブで呼び戻すか、そのための合理的な手段が、彼の地下施設での研究データには存在しなかった。
ヴァルディスは視線を机から外し、静かに窓の外へと戻した。
主のいない机の上で、三十二枚目の書類は冷たい風に小さく揺れていた。




