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第353話「余白の部屋」
城の奥深くにある文書保管室で、オーリアスは自分の机の前にぽつんと座っていた。
手元には、古い記録を削り取るための墨消しの道具が整然と並べられている。
だが、彼が棚から取り出して開くべき帳面は、もうどこにもなかった。
昨日までに、上官から指示されていた「ガルド・レイヴァン」に関するすべての名誉ある記録は、一枚残らず削り終えていたからだ。
次の処理指示を出すべき上官は、今朝から一度も姿を見せていない。
広い部屋の中には、オーリアス一人しかいなかった。
周囲の棚には、名前だけを綺麗に消され、誰の功績か分からなくなった無数の歴史の骸が並んでいる。
これ以上、この城の中で消すべき名前は残されていなかった。
オーリアスは自分の指先を見つめた。
爪の隙間には、何度洗っても落とすことのできない頑固な黒い墨の汚れが残っている。
行うべき仕事は何もない。しかし、勤務の終了を告げて退出の許可を出す者もいない。
彼はただ、誰も来ない静まり返った部屋の中で、引き出しの奥を見つめながら時間が過ぎるのを待っていた。




