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第351話「空の荷台」
南区と中央の貴族街を繋ぐ、重厚な石橋。
かつては地方の農村から届いた大量の小麦や新鮮な野菜を積んだ荷馬車が、朝早くから長い渋滞を作っていた場所だった。
一人の老人が橋の袂の石段に腰掛け、パイプに火をつけて通りを眺めていた。
一時間が経過したが、何も通らなかった。
二時間が経過しても、飢えた犬が二匹、尾を下げて橋を渡っていっただけだった。
地方の農家たちは、王都への物資の出荷を自発的に停止していた。
品物を買い取るはずの城下の問屋が、果たして代金を支払えるのか誰にも分からなくなっていたからだ。
石橋は頑丈に作られており、大剣で叩いたとしても傷一つつかない。
しかし、その上を流れるはずの物流という目に見えない血液だけが、綺麗に消え失せていた。
老人はパイプの灰を地面に落とし、空の荷台が寂しく並ぶ市場の方へとゆっくり歩き出した。
城が命令を下したわけではない。
民が自らの生活を守るために、王都という巨大な存在を静かに遮断し始めていた。




