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第350話「暗がりの歩数」
南区の路地の奥に位置する、小さな兵士詰所。
夜番を担当する二人の兵士が、木製の古い引き出しを音を立てて開けていた。
中には、夜間巡回用のランタンに入れるための油缶が置かれている。
一人がそれを取り出して振ってみると、中から軽い音が響いた。底にほんの少しだけ残っている状態だった。
「今週分の補充はまだ届いていないのか」
「ああ、来ていない。中央の兵糧倉庫が今週から完全に閉鎖されているそうだ」
兵士たちは薄暗い室内で互いの顔を見合わせた。
油がなければ、夜の暗闇に包まれる街を照らす灯りを作ることはできない。
松明の用意もなく、このまま外へ出れば自分の足元すらおぼつかない。
「どうする。このまま出るか」
「……暗い場所には、最初から行かないことにしよう」
一人の兵士が静かに言った。
もう一人もそれに反対することはしなかった。
彼らはランタンに火を灯すことを諦め、詰所の固い椅子に腰を下ろした。
外では、南区の夜がただ深い暗闇のまま静かに広がっていた。
いつもなら聞こえるはずの、治安維持のための足音はどこからも響かない。
兵士たちは闇の中でただじっと座り、朝が来るのを待っていた。




