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第347話「残された帳面」
図書室の奥に、ローディス・ヴァルグランの書斎があった。
今は違う者が使っている。
だが棚の一番奥に、一冊だけ帳面が残っていた。
誰も気づかなかった。
あるいは、気づいても触れなかった。
棚の整理をしていた若い使用人が、それを見つけた。
表紙に名前はない。
開いてみると、細かい字で何かが書かれていた。
最初の一行を読んだ。
「駒は、強すぎると扱いづらい」
使用人は少し止まった。
次の行。
「だが、弱すぎれば意味がない」
次の行。
「ゼル・アークレイドはその境界にいた」
使用人は帳面を閉じた。
持ち主の名前は表紙にない。
でも、誰の帳面か分かった。
持って行くべきか。
燃やすべきか。
そのままにするべきか。
使用人はしばらく考えた。
そして、帳面を棚の奥に戻した。
誰かが判断すべきことだ。
自分ではない。
そう思ったが、棚から手を離せなかった。
三秒だけ、そのまま立っていた。




