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第345話「地方の声」
街道の宿場町で、旅人が話している。
「王都、本当に変わったのか」
「変わったというより……静かになった」
「静か?」
「人が減ったんじゃない。動きが減った」
「違いは」
「……人はいる。でも、みんな次を待ってる」
宿の主人が酒を注ぎながら、黙って聞いていた。
旅人はもう一人いた。王都帰りの商人だった。
「ゼルっていう名前、知ってるか」
「ああ、最近よく聞く」
「俺は本人を遠くから見た」
「どうだった」
商人は少し考えた。
「……動かなかった」
「動かない?」
「王城の前に立ってた。ずっと。何もしてなかった」
「それで王都が静かになったのか」
「そうじゃないと思う」
「じゃあ何が」
商人はまた少し考えた。
「……ただいるだけで、何かが変わる人間っているんだよ」
宿の主人が、注いでいた酒を止めた。
「……昔、そういう人間の話を読んだことがある」
「本で?」
「歴史書で」
旅人が黙った。
歴史書に載る前の人間が、今ここにいる。




