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第340話「荷造りの朝」
王都の商人ジルダは、今朝から荷造りをしている。
店ではなく、家の荷造りだ。
妻が訊いた。
「どこへ行くの」
「バルカスだ」
「なぜ」
「……商売のためだ」
妻は何も言わなかった。
子供たちはまだ眠っている。
ジルダは棚から壺を一つ取り出した。
金の壺だ。緊急用の、家族しか知らない壺だった。
中を確認する。枚数を数える。
足りるか、足りないか。
足りるだろう、たぶん。
バルカスならしばらくは商売になる。
王都はもう、商売にならない。
なぜかは言えない。でも、分かっている。
今の王都に残ることは、流れに逆らうことだ。
川の流れが変わったなら、船も変えるべきだ。
それが商人というものだ、と父から聞いた。
妻が台所から出てきた。
「朝飯は」
「食べる」
「……いつ出る」
「明後日」
妻は頷いた。それだけだった。
ジルダは壺を布でくるんで、荷物の中に入れた。
子供部屋の方を、一度だけ見た。
それから、また荷造りに戻った。




