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第338話「上書きされた名前」
王城の文書保管室には、壁一面に棚がある。
書記官のオーリアスは今日も朝から棚の前にいた。
仕事は、古い文書の整理だ。
十年前の予算書。
二十年前の条約書。
三十年前の勅令。
問題は、その中に「ガルド・レイヴァン」という名が何度も出てくることだった。
殊勲を記録した文書。
褒賞を記録した文書。
叙勲の文書。
オーリアスは上司に確認した。
「……これらは、どう処理しますか」
上司は少し考えてから答えた。
「名前の部分だけ、削れ」
「削るとは」
「記録から消す。命令だ」
帰ってきて、棚の前に立った。
手には、墨消しの道具がある。
何枚も書き直してきた。
名前だけ消して、功績の部分はそのまま残す。
誰がやったのか分からない記録が、棚に増えていく。
功績だけが残り、人間が消える。
おかしい、と思う。
でも、おかしいと言える立場ではない。
オーリアスは墨消しを手に取った。
次の帳面を開いた。
そこにも、その名前があった。




