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第337話「港の記録」
港町バルカスの記録所には、常に海風が吹き込む。
棚に帳面が並んでいる。
ネルが十三年かけて積み上げた、船の記録だ。
日付、積み荷、出港地、行き先。
どれほど世の中が揺れても、記録だけは揺れないはずだった。
今日も帳面を開いた。
ペンを取り、日付を書いた。
王都行きの欄が、また空白になる。
六日続いている。
先月の同じ週を見返す。七隻。
先々月は十二隻。
去年の今頃は、一日三隻が当たり前だった。
港長が入ってきた。
無言で帳面を覗き込んで、また無言で出ていった。
ネルはペンを持ったまま、空白を見つめた。
記録係の仕事は、見たものを書くことだ。
見たものが「ない」なら、それを書くのが正しい。
欄に短く記した。
「王都行——欠航、六日目。原因、不明」
それだけ書いて、ペンを置いた。
窓の外、海は変わらず動いている。
船は来る。船は出る。
ただ、どこへ向かうかが、静かに変わってきた。
それが何を意味するか、ネルには分かっていた。
分かっていて、帳面には書かなかった。




