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第321話「貴族街の灯り」
貴族街の夜は、以前より暗い。
灯りが減った。
屋敷のいくつかに人がいない。
王都を離れたのだ。
別荘へ。あるいは領地へ。
理由はそれぞれ違う。
だが向いた方向は同じだった。
王都の外。
残った屋敷のひとつに、老いた貴族がいる。
窓から通りを見下ろしている。
灯りの消えた隣家を眺めている。
あそこの主は三十年来の知人だった。
去り際に一言だけ言っていった。
「……潮時だ」
それだけだった。
老いた貴族は窓を閉める。
卓の上に書類がある。
王城からの依頼状。
会議への出席要請。
手に取る。
少しの間、持っていた。
そして、静かに置いた。
返事はまだ書いていない。




