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第320話「地方で生まれた名前」
王国南部、小さな村。
夜、炉端に三人が座っている。
農夫と、元兵士と、行商人。
話題は王都だ。
最近はいつもそうだ。
「……まだいるらしいぞ」
農夫が言う。
「何もしないのに?」
「ああ、座ってるだけだと」
行商人が口を開く。
「王都で見た。本当に動かない」
沈黙。
炉の火が揺れる。
「……何者なんだ」
元兵士が呟く。
誰も正確には知らない。
だが噂はある。
十年閉じ込められた男。
裏切られた男。
それでも生きている男。
「……名前、なんていうんだ」
「ゼル、とか」
「ゼル」
元兵士は繰り返す。
覚えておこう、という顔をしていた。
それだけだった。
だがその夜、南部の小さな村で、一人の男がその名前を記憶した。
王都から遠く離れた場所で。




