第204話「広場にある日常」
朝。
---
王城前広場。
---
ゼルはまだ立っていた。
---
動かない。
---
王城を見る。
---
ただ。
それだけ。
---
なのに。
広場の空気は以前と変わっていた。
---
人々がいる。
---
遠巻きに。
---
見ている者。
通り過ぎる者。
立ち止まる者。
---
完全に異常。
---
なのに。
少しずつ。
---
“日常”へ混ざり始めていた。
---
「……パンだよ」
---
近くの露店。
---
男が声を上げる。
---
以前なら。
王城前で商売など考えられなかった。
---
だが。
人が集まる。
---
見に来る。
---
だから。
商売になる。
---
「……本当に売るのか?」
---
別の男が苦笑する。
---
「……腹は減るだろ」
---
短い返答。
---
笑いは小さい。
---
だが。
確かにあった。
---
怖い。
---
なのに。
生活は止まらない。
---
一方。
---
近衛騎士たちは。
その変化に戸惑っていた。
---
広場。
---
市民がいる。
---
子供の姿すらある。
---
そして。
ゼルは動かない。
---
「……なんなんだ」
---
若い騎士が呟く。
---
「……なんで」
「……日常になってる……」
---
団長は答えない。
---
ただ。
広場を見る。
---
確かに。
---
異常なのに。
少しずつ馴染み始めている。
---
その事実が。
逆に恐ろしかった。
---
一方。
---
ゼルは動かない。
---
露店にも。
市民にも。
---
興味を示さない。
---
ただ。
---
王城。
---
その一点だけを見続けていた。
---
まるで。
---
長い時間を使ってでも。
---
そこが動く瞬間を待つかのように。




