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第139話「接触前夜」

 夜。


---


 王都はさらに静かだった。


---


 窓の明かりも少ない。


 通りを歩く者も減った。


---


 皆。


 早く家へ戻る。


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 “夜に外へいるな”。


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 それが。


 いつの間にか。


 共通認識になっていた。


---


 ロイド家。


---


 ルークは部屋にいた。


---


 眠れない。


---


 当然だった。


---


 明日。


 自分は。


 “接触”する。


---


 何に?


---


 もう。


 聞くまでもない。


---


 王都中が恐れている存在。


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 それだけは分かる。


---


 机の上には。


 小さな短剣。


---


 護身用として渡されたもの。


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 だが。


---


 ルーク自身。


 意味がないと分かっていた。


---


「……はぁ……」


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 息を吐く。


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 震えが止まらない。


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 怖い。


---


 当たり前だ。


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 自分はまだ十五歳。


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 戦場も知らない。


 人殺しも知らない。


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 ただ。


 貴族として生きてきただけだ。


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 なのに。


---


 今。


 命を賭けさせられている。


---


 理由は一つ。


---


 “殺されないから”。


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 その理屈だけ。


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「……ふざけんな……」


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 初めて。


 怒りが漏れる。


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 父でも。


 兄でもない。


---


 自分を。


 道具として扱ったことに。


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 場面が変わる。


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 貴族会館。


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「……接触後はどうする」


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 誰かが聞く。


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「……情報を引き出す」


「……条件を探る」


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 上位貴族が答える。


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「……交渉可能なら」


「……そこから崩す」


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 “崩す”。


---


 その言葉に。


 場の空気が少しだけ戻る。


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 まだ戦える。


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 まだ終わっていない。


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 そう。


 思い込みたい。


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「……もし接触できなかったら」


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 若い貴族が聞く。


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 沈黙。


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 一瞬だけ。


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「……その時は」


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 上位貴族がゆっくり言う。


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「……次を考える」


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 答えになっていない。


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 だが。


 誰も追及しない。


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 怖いからだ。


---


 “失敗した場合”を。


 考えたくない。


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 場面が変わる。


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 王都外れ。


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 ゼルは一人で立っていた。


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 風だけが吹いている。


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 静かだ。


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 視線は。


 王都へ向いている。


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 何も言わない。


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 だが。


 その目だけは。


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 冷たい。


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 遠く。


 ロイド家の方向。


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 そこへ向けられていた。


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 利用。


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 盾。


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 逃げ道。


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 ゼルは理解している。


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 何を考えているのか。


 何を期待しているのか。


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 全部。


---


 理解した上で。


---


 静かに立っている。


---


 その姿は。


---


 怒りよりも。


 ずっと怖かった。


---


 そして。


---


 王都ではまだ。


---


 誰も知らない。


---


 “境界を利用した”という事実が。


---


 どれほど。


 致命的なのかを。


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