第138話「利用された境界」
朝。
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王都は静かだった。
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市場は開いている。
店も並んでいる。
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だが。
誰も大声を出さない。
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笑い声も少ない。
視線だけが。
常に周囲を警戒している。
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“次は誰か”。
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その不安が。
街全体に広がっていた。
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ロイド家。
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ルークは食堂に座っていた。
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父も兄もいる。
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だが。
会話がない。
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妙に優しい空気。
妙に静かな態度。
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それが逆に苦しい。
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「……俺」
「……本当に行くのか」
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ようやく口を開く。
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父の手が止まる。
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一瞬だけ。
空気が固まる。
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「……必要なことだ」
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返ってきたのは。
短い言葉。
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「……なんで俺なんだ」
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今度は逃がさない。
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父を見る。
兄を見る。
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どちらも。
目を逸らした。
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その瞬間。
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ルークは理解する。
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“答えられない”。
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つまり。
そういうことだ。
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「……十五だからか」
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静かに言う。
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父の肩が揺れた。
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兄が息を飲む。
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沈黙。
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何より分かりやすい答え。
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「……本当に」
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ルークの声が震える。
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「……守られてるから?」
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返事はない。
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誰も。
否定できない。
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ルークは椅子から立ち上がる。
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怒鳴らない。
泣かない。
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その代わり。
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顔色だけが消えていた。
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「……俺を」
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小さく呟く。
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「……盾にするのか」
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父が立ち上がる。
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「……違う!」
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即座に否定する。
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だが。
遅い。
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もう。
届かない。
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「……家のためだ」
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兄が言う。
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「……皆を守るために必要なんだ」
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その言葉。
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ルークは何も返さない。
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ただ。
静かに見ている。
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そして。
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理解する。
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守られているのは。
自分じゃない。
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“利用価値”。
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それだけだと。
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場面が変わる。
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貴族会館。
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「……準備は整った」
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上位貴族が言う。
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「……今夜接触する」
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空気が張り詰める。
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恐怖は消えていない。
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だが。
全員。
どこかで期待している。
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十五歳以下。
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その“境界”が。
自分たちを救うかもしれないと。
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まだ。
誰も理解していない。
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それが。
“慈悲”ではなく。
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ゼル自身の。
絶対に譲らない“線”だということを。
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そして。
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その線を。
利用しようとした時点で。
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すでに。
踏み越えていることを。




