第136話「守られている理由」
ロイド家の空気は重かった。
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静かすぎる。
誰も大声を出さない。
廊下を歩く足音すら。
妙に小さい。
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ルークは部屋に戻っていた。
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椅子に座ったまま。
動けない。
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「……十五歳以下……」
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小さく呟く。
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頭から離れない。
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なぜ。
そんな話になる。
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なぜ。
自分の年齢を確認した。
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考えれば考えるほど。
嫌な予感だけが強くなる。
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窓の外を見る。
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王都は静かだ。
以前とは違う。
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人が減った。
笑い声が消えた。
貴族の馬車も少ない。
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街全体が。
息を潜めている。
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その時。
控えめなノック音。
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「……ルーク様」
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使用人の声。
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「……入って」
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扉が開く。
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年老いた使用人だった。
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ルークが幼い頃からいる。
数少ない。
気を許せる相手。
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「……どうしたの?」
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使用人は少し迷う。
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そして。
静かに口を開いた。
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「……最近は」
「……外へ出ない方がよろしいかと」
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遠回し。
だが。
意味は伝わる。
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「……何が起きてる」
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ルークが聞く。
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使用人は答えない。
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いや。
答えられない。
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その沈黙だけで。
十分だった。
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「……知ってるんだな」
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使用人の肩が揺れる。
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「……少しだけです」
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小さい声。
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「……ですが」
「……子供は手を出されていません」
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そこで。
ルークの呼吸が止まる。
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「……なんで分かる」
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即座に聞く。
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使用人は後悔したように目を伏せる。
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言い過ぎた。
そう顔に出ていた。
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「……本当に」
「……何が起きてるんだ」
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静かな声。
だが。
強い。
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使用人は迷う。
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長く。
苦しそうに。
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そして。
小さく呟いた。
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「……昔」
「……地下で……」
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その瞬間。
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部屋の空気が止まる。
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ルークは何も言わない。
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ただ。
続きを待つ。
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「……多くの方が」
「……関わったそうです」
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言葉を選んでいる。
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だが。
それだけで十分だった。
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ルークは理解する。
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何かがあった。
貴族たちが関わった。
そして。
今。
その報いが来ている。
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「……じゃあ」
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喉が渇く。
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「……俺は」
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言葉が止まる。
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聞きたくない。
だが。
聞かずにはいられない。
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「……守られてるのか?」
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使用人は答えない。
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沈黙。
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それが答えだった。
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ルークの手が震える。
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安心ではない。
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むしろ逆。
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“理由がある保護”。
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それは。
普通の優しさより。
ずっと怖かった。
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その頃。
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貴族会館では。
新たな計画が進んでいた。
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「……接触は明日だ」
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上位貴族が言う。
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「……十五歳なら問題ない」
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誰かが頷く。
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希望。
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いや。
“希望に見えるもの”。
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それに。
全員が縋り始めていた。
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まだ。
気づいていない。
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その境界線が。
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“守るため”であって。
“利用するため”ではないことに。




