第135話「十五歳という境界」
ロイド家の屋敷は。
異様な静けさに包まれていた。
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使用人も少ない。
声も小さい。
誰もが。
“何か”を恐れている。
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ルークは窓の外を見る。
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空が暗い。
まだ昼なのに。
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「……変だな……」
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小さく呟く。
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ここ数日。
王都の空気は明らかに変わった。
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人が減った。
店が閉まった。
貴族たちが姿を消した。
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だが。
誰も説明しない。
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「……兄上は?」
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廊下を歩いていた使用人に聞く。
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その瞬間。
使用人の肩が揺れた。
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「……お、お部屋に……」
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目を合わせない。
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逃げるように去っていく。
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違和感だけが残る。
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ルークはゆっくり歩く。
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兄の部屋。
扉の前。
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ノックしようとして。
止まる。
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中から。
声が聞こえる。
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「……本当に大丈夫なんだな?」
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父の声。
震えている。
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「……十五だ」
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別の声が返す。
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「……条件から外れている」
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空気が止まる。
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ルークの動きも止まる。
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意味が分からない。
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「……もし違ったら……」
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「……その時は終わりだ」
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静かな声。
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重い。
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ルークの背中に寒気が走る。
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“条件”。
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何の話だ。
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なぜ。
自分の年齢が出る。
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理解できない。
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だが。
直感だけは働く。
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“自分の話をしている”。
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ルークは静かに後退する。
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足音を消して。
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呼吸を止めて。
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部屋から離れる。
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心臓が速い。
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「……なんなんだよ……」
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小さく呟く。
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答えはない。
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ただ。
胸の奥に。
嫌なものだけが残る。
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場面が変わる。
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貴族会館。
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「……確認する」
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上位貴族が口を開く。
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「……対象は十五以下を殺していない」
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空気が揺れる。
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「……つまり」
「……まだ線引きがある」
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希望。
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その言葉に近いものが。
一瞬だけ生まれる。
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「……完全な化け物じゃない」
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誰かが呟く。
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その瞬間。
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全員の顔色が。
ほんの少しだけ戻る。
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理解できるルール。
条件。
境界。
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それがあるだけで。
人は安心する。
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「……なら利用できる」
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上位貴族が断言する。
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「……十五歳以下は安全だ」
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その言葉。
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誰も否定しない。
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誰も。
まだ気づいていない。
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それが。
“守られている”のであって。
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“利用していい理由”ではないことに。
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その頃。
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王都外れ。
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ゼルは静かに立ち止まる。
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視線の先。
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遠く。
ロイド家の屋敷。
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何も言わない。
表情も変わらない。
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だが。
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ほんのわずかに。
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視線だけが細くなる。
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静かに。
確実に。
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“線を越えた”者たちへ向けて。




