第109話 逃げられない再会
―王都・上層区・エリナの部屋―
静寂。
音がない。
風も止まっている。
―エリナ―
「……来る……」
小さく呟く。
もう分かっている。
否定しない。
できない。
―気配―
足音はない。
扉も鳴らない。
だが。
“そこにいる”。
―エリナ―
「……やめて……」
声が震える。
視線を動かせない。
振り向けない。
―沈黙―
数秒。
何も起きない。
だが。
その“何も起きない”ことが。
恐怖になる。
―変化―
「……」
背後。
空気が変わる。
わずかに。
だが。
確実に。
―エリナ―
ゆっくり。
振り向く。
止められない。
―視線―
目が合う。
―ゼル―
そこに立っている。
何も変わらない。
あの時と同じ。
無表情。
静かな目。
何も言わない。
ただ。
“見ている”。
―停止―
時間が止まる。
言葉が出ない。
動けない。
―エリナ―
「……ゼル……」
かすれた声。
ようやく。
出る。
―現実―
夢じゃない。
幻でもない。
本当に。
“いる”。
―エリナ―
「……違う……」
小さく言う。
だが。
自分でも分かっている。
違わない。
―ゼル―
「……」
何も言わない。
ただ見ている。
あの時と同じ。
―記憶の再現―
地下。
暗闇。
冷たい空気。
そして。
“この視線”。
―エリナ―
「……やめて……」
震える声。
後ずさる。
距離を取ろうとする。
―だが―
意味がない。
逃げられない。
分かっている。
―ゼル―
「……関わっていたな」
初めて。
口を開く。
低く。
淡々と。
―エリナ―
「……っ……!」
言葉が出ない。
否定できない。
できない。
―締め―
逃げられなかった。
避けられなかった。
その時点で。
すべては。
“始まっていた”。




