第104話 思い出してはいけない
―王都・上層区・エリナの部屋―
夜。
静まり返る。
外の音は遠い。
部屋の中。
息だけが響く。
―エリナ―
「……ゼル……」
もう一度。
口に出る。
止められない。
―理解の拒絶―
「……違う……」
首を振る。
強く。
否定する。
―記憶の侵食―
暗闇。
地下。
冷たい床。
鎖の音。
そして。
“あの場所”。
―断片の連結―
人影。
複数。
見ている。
何も言わない。
ただ。
“見ている”。
―エリナ―
「……違う……!」
声が震える。
今までよりも。
強く。
―感覚の再現―
息苦しい。
空気が重い。
逃げられない。
閉じ込められている。
―本能の拒絶―
「……やめて……」
初めて。
弱い言葉。
出る。
―記憶の核心未満―
誰かが。
そこにいる。
何も言わない。
ただ。
“見ている”。
―視線の一致―
その目。
冷たい。
感情がない。
だが。
忘れられない。
―エリナ―
「……やめて……!」
頭を抱える。
座り込む。
呼吸が乱れる。
―崩れ始める理性―
今まで。
完璧だった。
整っていた。
何も問題なかった。
はずなのに。
―否定の限界―
「……知らない……!」
「……覚えてない……!」
叫ぶ。
だが。
通じない。
自分にすら。
―締め―
思い出してはいけない。
そう分かっている。
だが。
止められない。
その時点で。
すでに。
“戻り始めていた”。




