第103話 消せない名前
―王都・上層区・エリナの部屋―
静かだ。
夜。
灯りは落とされている。
だが。
眠りは来ない。
―エリナ―
「……」
ベッドの上。
目は開いている。
呼吸は浅い。
止まらない。
―侵食―
暗闇。
冷たい空気。
鎖の音。
そして。
“誰か”。
―断片の強化―
黒い髪。
静かな目。
無言。
ただ見ている。
―反応―
「……っ……!」
体が震える。
抑えられない。
今までとは違う。
―言葉の形成―
「……ゼ……」
口が動く。
音が出る。
止めようとする。
だが。
止まらない。
―エリナ―
「……ゼ……ル……」
小さく。
はっきりと。
出る。
―沈黙―
時間が止まる。
空気が固まる。
―理解―
「……ゼル……?」
自分で言う。
初めて。
“名前”として。
―混乱―
「……誰……?」
分からない。
知らない。
覚えていない。
なのに。
出た。
―恐怖―
「……なんで……」
声が震える。
手が止まらない。
―記憶の連鎖未満―
地下。
暗闇。
冷たい床。
そして。
“あの目”。
―拒絶―
「……違う!!」
強く叫ぶ。
初めての声。
感情が乗る。
―否定の崩壊―
今までの“完璧”が。
崩れる。
―エリナ―
「……知らない……」
「……そんな名前……」
繰り返す。
だが。
声に確信がない。
―締め―
名前は出た。
もう戻らない。
消したはずの記憶は。
確実に。
“繋がり始めていた”。




