第102話 崩れ始めた日常
―王都・上層区・貴族街―
(侍女視点)
「……また……」
手が止まる。
視線の先。
エリナがいる。
―エリナ―
「……」
廊下の途中。
立ち止まっている。
何もしていない。
ただ。
動かない。
―違和感①―
数分。
そのまま。
誰も声をかけられない。
―侍女A(小声)―
「……どうしたの……?」
―侍女B(小声)―
「……分からない……」
怖い。
近づけない。
―エリナ―
「……」
目が開いている。
だが。
焦点が合っていない。
―異常の進行―
“思考が止まっているように見える”。
だが。
違う。
何かを。
“見ている”。
―突然―
「……ゼ……」
小さな声。
―侍女たち―
「……!」
一斉に息を呑む。
初めて聞く。
意味の分からない音。
―エリナ―
「……違う……」
すぐに言い直す。
首を振る。
強く。
―違和感②―
その動き。
“焦り”がある。
今までなかった。
―侍女A―
「……お嬢様……?」
恐る恐る声をかける。
―エリナ―
「……何?」
振り返る。
いつも通り。
完璧な表情。
―落差―
さっきの様子が。
嘘のように消える。
―侍女A―
「……い、いえ……」
何も言えない。
言ってはいけない。
―場面転換―
―王都・近衛騎士詰所―
(騎士視点)
「……報告が上がっている」
低い声。
重い空気。
―騎士長―
「……内容は?」
―部下―
「……エリナ様の行動が……」
「……不自然だと」
―騎士長―
「……具体的に」
―部下―
「……突然停止する」
「……会話が途切れる」
「……意味不明な発言」
言葉を選びながら。
報告する。
―沈黙―
重い。
誰もすぐには反応しない。
―騎士長―
「……病か?」
―部下―
「……不明です」
「……ですが……」
言い淀む。
―騎士長―
「……言え」
―部下―
「……“精神的な異常”の可能性が……」
―確定―
空気が固まる。
その言葉。
言ってはいけないもの。
―場面転換―
―エリナの部屋―
静かだ。
エリナは座っている。
手が震えている。
わずかに。
―エリナ―
「……ゼ……」
また。
出る。
止められない。
―恐怖―
「……誰……」
初めて。
“怖い”という感覚。
―締め―
違和感はもう隠せない。
日常は崩れ始めた。
そして。
それは外側にも伝わった。
“異常”として。




