第100話 消せない違和感
―王都・上層区・貴族街―
(侍女視点)
「……おかしい……」
小さく呟く。
手が止まる。
目の前。
エリナがいる。
―エリナ―
「……」
テーブルに向かっている。
食事。
用意された料理。
完璧な盛り付け。
だが。
―違和感①―
減っていない。
ほとんど。
口にしていない。
―侍女―
「……お口に合いませんか……?」
恐る恐る聞く。
―エリナ―
「……問題ないわ」
即答。
視線は料理に向いている。
だが。
食べない。
―違和感②―
視線が。
合っていない。
見ているのに。
“見ていない”。
―侍女(心中)―
(……どこを……見てるの……?)
―エリナ―
「……下げて」
小さく言う。
―侍女―
「……ですが……まだ……」
思わず言う。
栄養。
体調。
気になる。
―エリナ―
「……要らない」
被せるように言う。
それ以上を拒絶する。
―沈黙―
言葉が止まる。
何も言えない。
―侍女(退出後)―
「……どうしよう……」
小さく呟く。
何もできない。
何も分からない。
―別視点:庭師―
「……最近、外に出ないな」
庭を見ながら言う。
―庭師仲間―
「……そうだな」
「前はよく歩いてたのに」
―違和感③―
動かない。
外に出ない。
変化がない。
―本質―
生きているのに。
“動いていない”。
―場面転換―
―エリナの部屋―
静かだ。
エリナは座っている。
同じ姿勢。
ほとんど動かない。
―エリナ―
「……」
目は開いている。
だが。
焦点が定まらない。
―侵食―
頭の中。
同じものが繰り返される。
暗闇。
声。
誰か。
―断片―
「……お前……は……」
言葉にならない。
音だけ。
―反応―
「……っ」
わずかに顔が歪む。
初めて。
感情に近い反応。
―拒絶―
「……違う……」
強く言う。
今までよりも。
はっきりと。
―限界―
押さえ込めない。
消せない。
消そうとしても。
残る。
―締め―
違和感は消えない。
押し込んでも。
消しても。
必ず戻る。
それは。
“失われたはずのもの”が。
まだ残っている証だった。




