第3話 私と契約して、魔法少女にさせて!
「ひいいいいい!!??」
私は驚きと恐怖でそのぬいぐるみ、にそっくりなインキュバッスを思いっきり壁に投げつけた。
『げふぇっ!?』
インキュバッスは壁に激突した瞬間、変な声を上げて、そのまま動かなくなった。
「……あ、あれ?」
もしかして、私やっちゃった?
いや、それともさっきの声は気のせいだったのかな?
ピクリとも動かないインキュバッスに近づいて、恐る恐るつついてみる。
ちょんちょん。
『いってーなてめぇ!? 殺す気かよ!!』
「うわぁああああ!!」
突如起き上がったインキュバッスが怒声を上げる。
「やっぱり生きてた!?」
『そりゃ生きてるだろ! こんなんで死んでたら精霊やってねえわ!』
まったくこれだから人間という奴は、となにやらぶつぶつ呟きながら、背中の羽を羽ばたかせながら腕と足を組んでいるインキュバッス。
すごい……これが精霊。テレビで見るのとは全然違う。
神秘性やらなんやらは全然感じられないけど、自分たちとは違う超常的な存在だというのがわかる。
ってそうじゃなくて!
えっ? 嘘でしょ? 私、精霊を金で買っちゃったわけ? これって人身売買みたいなものじゃないの?
いや待って。下手したらこれって犯罪――
「歩夢ー? さっきから大きい声だしてどうしたのー?」
下の階から、お母さんの声が聞こえた。
同時に、階段を上がってくる音も。
はっとなって、自分の部屋を見回す。
段ボールの中に入っている本物の槍に、私を見て首を傾げているインキュバッス。
これはやばい。
こんな状況を見られでもしたらどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだ。
「ちょっとあんた、この中に隠れてて!」
『はぁ? うぇっ!?』
私は押入れを開けて、槍と段ボール箱、それとインキュバッスの首根っこを掴んで無理やり中に押し込む。
それから部屋のドアを開けると、そこにはお母さんが怪訝そうな顔をして立っていた。
「ああ、ごめんごめん。心霊ドラマを見ててさ。思わず大きな声だしちゃったんだよね」
「そうなの? 全く、ご近所の迷惑になるから、あんまり騒がないでね?」
そういって、お母さんは一階にもどっていった。
ふぅ。危なかった……。
部屋のドアを閉めて、それからまた押入れを開けてみる。
『……お前なあ。この短時間で二回も精霊を雑に扱うなんてどうかしてるぜ?』
「ご、ごめんって。それよりも、いろいろと聞きたいことがあるんだけど」
押入れから出てきたインキュバッスは、また腕と足を組んで宙に漂い始める。
私は自分のベッドに腰を掛けて、インキュバッスに向き直る。
「まず、あなたは精霊なの? インキュバッスで合ってる?」
『うん? なんで見ず知らずの人間にそんなことを答えなくちゃならないんだ』
「いいから答えて。状況が状況なの」
するとインキュバッスは、めんどくせえなと愚痴りながらも、しぶしぶといった感じで答えてくれた。
『ああ、そうだ。俺は精霊だ。てか、なんで俺の名前を知っているんだ?』
やっぱりインキュバッスで合ってた。
「あなたが出ているBL本を読んだのよ」
私は、本棚から例の本を取り出し、最初のページをインキュバッスに見せつける。
『はぁ? 俺が出ている……って、なんだこれ!? マジで俺そっくりのやつが出てきてるじゃねえか!』
インキュバッスは私から本をふんだくると、ぺらぺらとページをめくっていく。
そしてすごくご満悦そうな顔をして。
『ふ、ふふふ。とうとうこの俺も本が出るまでに人気が出てしまったか。まっ、本物の俺様と比べたらまだまだかっこよさでは劣るがな。はーっはっはっはっは!』
その過剰な自信はどこから来ているんだか……。
「てことは、あなたもユートピアってところから来たの?」
『ユートピア? あー、そうだな。なんかそんな感じの所から来た気がするわ』
「そんなかんじって……具体的にはどこにあるの?」
『んなもんわかんねえよ! ここに来るまでの記憶がないんだからよ』
「……えっ、記憶がない?」
『ああ。覚えているのは単語だけだ。精霊と自分の名前。それにさっき言ったユートピアと、あとは……プリンセスと魔法少女だけだな』
「……そう、なんだ」
そうなると、なぜインキュバッスという精霊が商品として売り出されているかはわからずじまいということになる。うーん、困ったな。
『てか、俺なんでこんな場所にいるわけ? たしか俺が生まれた場所は、もっと暗い所だった気がするんだが』
辺りを見回すインキュバッスに対して、私は別の事を考えていた。すなわち、これからどうするかということだ。
自分のスマホを取り出して、検索エンジンに掛けてみる。『精霊 売買 犯罪』。
うーんだめだ。人身売買か霊感商法の話しか出てこないや。
うん? いや、まて。知恵袋のほうにそんな感じの質問があるぞ?
『Q 精霊を故意に売ったり買ったりした場合、犯罪になりますか?』
『A 恐ろしいことを考えますね。現状、精霊には人権が認められていないので、罪になる可能性自体は低いと思います。ただ、最近は精霊にも人権を求める運動が世界中で起きていますので、いずれは精霊にも人権が認められる時が来るかもしれません。そうなった場合、過去の事例をさかのぼって罪に問われることもないとは言い切れません。まあ、精霊がもつ力にはまだ未知の部分が多いので、そんな精霊を売買しようなんて恐れ多くて僕にはできませんけどね笑。それに、仮に罪には問われなかったとしても、世間からのバッシングも予想できるので、いずれにせよやめておいた方がいいでしょう』
…………。
「これ、やばいかも……」
どうしよう、泣きたくなる。
そこらへんで拾ってきましたって言って交番に届ける?
いやでも、相手は警察の人だよ? 色々調べられたら、いずれは足がついちゃうかも。
だったら自分の部屋で隠し通す?
それこそ自信が無い。私が出かけている間にでもお母さんが掃除とかで部屋を調べたらすぐに見つかっちゃう。
だったら、残る手段は……いやでも、おっちゃんと約束したしなあ……。
いやいやでも、目の前に精霊がいるんだよ? 据え膳食わねばなんとやら。私の憧れにもうすぐ手が届きそうだというのに!
『なあ、聞いているのか? ここはどこなんだって聞いているんだが』
ええい! もうどうにでもなれ!
「ねえ! あんた精霊って言ったわよね!」
『うわ、な、何だ急に!?』
わたしはインキュバッスの顔に自身の顔を近づけた。
「精霊なら、誰かを魔法少女にできるのよね?」
『えっ、ま、まあできるんじゃないか?』
「だったらお願いがあるの!」
私は、声を大にして叫んだ。
「私と契約して、私を魔法少女にさせて!!」
おっちゃん、ごめんなさい。
私は、憧れから手を引くにはまだ幼すぎました……。




